私は天使なんかじゃない








冷却ラボ





  それは過去からの挑戦。





  宇宙船内の施設。
  今回襲撃するのは冷却ラボ。どんな場所かは分からないけど、おそらく誘拐された人たちが冷凍漬けされている、と考えるべきだ。
  さてさて。
  「……何で私が……」
  「あんた軍人さんだろ? さあ、チビスケどもを蹴散らしてやろうぜっ! はははっ!」
  「今回こそ1体でも倒さんと」
  「ミスティ頑張れー」
  以上、4名で今回は冷却ラボを襲撃中。
  襲撃中と言ってもまだそのエリアに入り、通路を歩いているだけなんだけどさ。
  今のところまだ敵はいない。
  さてさて、今回のメンツ。
  アンカレッジ戦争の時代から現代(私がいる時代が最新の時代のようです)にやって来たエリオット・ターコリエン君。金髪美形な衛生兵。精神的にへたれだけど。
  武器はアサルトライフル、冬季用の白いコンバットアーマー。
  白い理由?
  要は雪深いアンカレッジでステルスする為ですね。
  続いてのメンツは、口がちょいとよろしくないチョイ悪親父なポールソン。
  今回はショットガンも持ち込んでいる。
  腰に自前のリボルバーもあるけど。
  で私。
  今回は10oマシンガンを装備。数撃ちゃ当たるをモットーに頑張ります。アサルトライフルより手頃かなーと思いまして。ボルト101のジャンプスーツの上にレザーアーマー。
  サリーは手ぶらです。
  頭脳要員として連れてきました。
  他のメンツはお留守番。
  何と言ってもこちらは数が少ない。
  ここはエイリアンたちの本拠地だからどんな抜け道があるか分かったもんじゃない。全員で突っ込んでいる間にエンジンコアが落とされる可能性だってあるのだ。
  それは避けたい。
  エンジンコアは主要な施設のある場所と通じている。一種の要衝であり、立て籠もる意味合いがある場所。
  あそこにいる限りエイリアンは分断される。
  あの場所を問通らない限りはどこにも行けないからだ。
  そういう意味合いであそこに陣取っているし、どうあっても奪われるわけにはいかない。そして現在攻撃の為に進軍中の場所は冷却ラボ、このエリアにあるジェネレーターを破壊してさらに
  上層に向かうのが現在最大の目的だ。もちろん一回でどうこうできるとは考えてない、様子見を兼ねての進軍です。
  もっとも。
  もっともMr.クラブは酔い潰れててこちらに来れないという意味でもありますけどねー。
  だからこそターコリエンが駆り出されたわけで。
  さて。
  「気負う必要はないわ、ターコリエン。あくまでも偵察だし」
  「だ、だよな」
  そう。
  あくまで偵察、威力偵察ってやつだ。
  元々数の上では向こうが圧倒的に多いんだから、何度も攻撃を繰り返して敵の数を減らす必要がある。もちろん可能なら今回の戦いでジェネレーターを破壊するけどさ。
  通路を歩く。
  敵はまだいない。
  「保安官」
  「ん? 何?」
  相変わらず私が何故に保安官なのか不明。
  別にいいですけど。
  咥え煙草のままチョイ悪親父は立ち止まった。私たちも止まる。
  「いつまでこんな茶番を続けるんだ?」
  「茶番?」
  「俺はエイリアンどもをぶっ殺したいんだよ」
  血の気の多い奴だ。
  ペッとタバコを吐き捨てた。
  下品な奴。
  「全員で武器持ってワーッと突っ込んでみる? ……勝てるわけないじゃない、そんなんで。一矢報いたいだけなら一人でやるしかないと思う。誰も自殺行為はしたくないと思うけど?」
  「……」
  「どう?」
  「……分かったよ」
  「そう?」
  「ああ。こっちにゃ戦士2人とこの場所に長けた幼女1人のパーティーだ、確かに無理は出来んよな」
  「ちょっ」
  にやりと笑うポールソン。
  その勘定には私がいないんですけど?
  足手まとい?
  足手まといっすか、私?
  あっはははっ!
  ……。
  ……ちっくしょーっ!
  いいもんいいもん活躍してやるもんっ!
  くそーっ!
  「ミスティ楽しい☆」
  楽しんでいただき何よりです。
  「と、ところで、どの程度の探索をするつもりなんだ?」
  ターコリエン君はへたれ全開な模様。
  うーん。
  彼は軍人なんだけどな、衛生兵とはいえ、戦場を知っている。まあ人間相手ではなく未知のエイリアン相手だから怖いのもあるんだろうけど。
  私?
  意外にも平気。
  ただお役にたてないだけです。はっはっはっ!
  ……。
  ……ちっくしょーっ!
  はふ。
  「ターコリエン」
  「な、なんだい?」
  「ちょっと深呼吸しなさいよ」
  「あ、ああ」
  「そうだぜ、旦那。保安官なんてこんなに元気だぜ?」
  どーせ役立たずなのに云々なんだろうがよ。
  くっそー。
  舐めやがってー。
  「ターコリエンは軍人さんなのよね?」
  「徴兵だけどね」
  「訓練は受けたんでしょ? ……あー、いや、衛生兵だから武器は持てないんだっけ?」
  「そりゃ間違った歴史だな。あの泥沼の戦争ではそんな甘いことも言ってられなかったのさ。モントゴメリー軍曹に訓練は受けたが、私の指は武器を持つより外科向きでね」
  「ふぅん」
  性格的に軍人にはなれなかった、というのもあるのかな。
  もちろん徴兵だし、誰でも彼でも軍人になれるわけではないのは分かってる。
  「な、なあ」
  「何よ?」
  「連中も文明があるんだ、その、エイリアンだけどさ。何とか和解って出来ないだろうか?」
  「和解の前提として、私らがあいつらに何かして、その上で誘拐されたことを理解しないと無理ね」
  「だからそれを話し合って……」
  「牛でも鳥でもいいけど、食べる為に捕まえる時に相手の都合聞く? エイリアンにとって、エイリアンが狩る側なのよ。それ以外考えられない」
  「……」
  「保安官、話し合いはもういいだろ。そろそろ行こうぜ」
  「ええ」
  ポールソンに促されて先に進む。
  敵はいない。
  手薄。
  手薄だなー。
  エンジンコアに繋がる扉はバリケード築いていたけど何の反応もなかった、らしい。
  気付いていないのか?
  それとも……。
  「止まれ」
  「止まれー☆」
  この中で一番肝の座ったポールソンが警告。
  扉の前だ。
  扉は閉じている。
  ここまで一本道だった。
  歩哨も見張りもいない、これはまさか罠か?
  「サリー」
  「何?」
  「ここって何の部屋?」
  「何かの実験室」
  「何かの」
  それが気になるところだ。
  「うんとね、たくさんスイッチとか機械とかパソコンがあるの。でね、ガラスで仕切られた向こうにも部屋があるの。そこはベッドが3つあって、病院、みたいなところ」
  「ふぅん」
  嫌な部屋だ。
  どう考えても何らかの処置室だろう。
  何を処置するところ?
  考えたくないなー。
  「この先はどこまで行ったことあるの?」
  「ここまでだよ」
  「警備が厳しい?」
  「それもあるけど、こっから先は寒いんだよ。ブルブルしちゃう。だから進んだことないんだ」
  「ふぅん」
  冷却ラボという所以ってわけだ。
  間違いない。
  この先には冷凍漬けされている人たちがいる可能性が高い。
  「な、なあ」
  「何だよ軍人さん、言いたいことがあるならハキハキ言いやがれよ」
  「あ、ああ。この先って囚われている人たちがいるんじゃないか? その、私たち以外にも」
  「奇遇ね、私もそう思ってた。あなたの部隊の仲間もいるかも」
  彼は部隊ごと誘拐されている。
  どこに囚われているかは分からない、でもここにいる可能性が高い。もちろんエイリアンどもの性格というか慣習が分からないのが痛いけどさ。どういう理屈で生身と解凍要に区別しているの
  かが分からない。囚われた時代別ってわけでもないのは確かだ。そもそも誘拐する意味すら分からないのだ。
  まあ、人類じゃないんだ。
  考えても無駄ってことね。
  「な、なあ」
  「何?」
  「これは、その、私の意見なんだが、全員助けるんだ。そしたらこっちの戦力は多くなる。だろ?」
  「駄目ね」
  「な、何で?」
  「気心が知れない烏合の衆になる。最悪分裂して敵対する。今のこの状態は、ある意味奇跡的な人間関係だと思う。人数増やせば破綻する」
  「ほぅ、言うねぇ、保安官。あんたやっぱ頭いいぜ」
  「ありがとう。ターコリエン、あなたの部隊は何人いるの?」
  「5人だ。私の部下たちだ」
  「部下?」
  「言わなかったか? 私は分隊長だ」
  「へー」
  指揮官だったのか。
  何気に有能らしい。
  ……。
  ……あー、今の考え方は失礼か。
  おおぅ。
  「その、新顔を採用しないのは分かったけど……部下はいいよな? な? ポールソンはどう思う?」
  「いいんじゃねぇか、それで」
  「よ、よかった」
  「私もそれでいいと思う」
  「私もー☆」
  ターコリエンが分隊長なら、部下たちは彼の言うこと聞くだろ。
  人数的に増えるとは言っても新顔採用は出来るだけ避けたい。さっき私が言ったとおり、烏合の衆になるからだ。

  チャ。

  銃の点検。
  問題なし。
  弾丸はたっぷりと持って来ている。
  「行きましょうか」
  「じゃあ、開けるね」
  サリーが配線を弄って扉を開ける。開いた瞬間、白い冷気が床を滑るように廊下に溢れだした。
  さぶっ!
  「チビスケどもっ!」
  「待って」
  確かに敵がいる。
  ショットガンの照準を合わせようとするポールソンを私は押し留めた。連中はこちらを見ていない。何かのコンソールに向き直り、つまり私たちに背を向けている。そしてコンソールを操作して
  いない連中はその先にあるガラスにへばりついている。材質はガラスじゃないんでしょうけど、私にはあのガラスのような材質が何かは分からない。
  ガラス向こうへの扉がある。
  ここを制圧して速やかに向こう側も始末する必要がある。
  数は……12体。
  結構いる。
  しゃがんだ状態でいる私達にはガラスのようなものに何があるかは分からない。
  ただ、サリーの言葉通りなら処置室だ。
  何の処置中だ?
  人間だろ。
  相手の注意は完全にそれている、皆殺しするには充分だ。だけど、これは、間が良いんだか悪いんだか分からないな。さすがに人間解体ショーを見ることには異義がある。
  「……どうする。保安官?」
  「……」
  「保安官」
  「……連中の声聞こえる? ガラスの向こうからの声」
  「いや、よっぽどだんまりならともかく、そうじゃないならここまで届かないな。それが?」
  「防音か。だったらあの場の連中を始末して、その向こうのも始末しなきゃね」
  確実に最初の一撃はこっちが無条件で入る。
  ここの連中を始末するのは容易い。
  向こうが防音なら気付くまでに少しの間がある、その少しの間が私たちにとって最大の間となる。こっちの方が数が少ないんだ、活かせる状況は活かさなきゃ。
  それにしても、だ。
  連中って危機意識がないのかもしれないな。
  歩哨すらいない。
  要は私たちが脱走し、ハンガーやらロボット工場潰したり、貨物室から物資奪ってエンジンコアで人生謳歌していることに気付いていないことになる。そして現在ここを襲撃していることもね。
  驕りか?
  それとも、そもそも人間とは違う思考なのか?
  まあいいさ。
  一気に行く。
  「やるわよ」
  「ああ」
  「りょ、了解だ」
  「はーい」

  ばぁん。

  最初に撃ったのはポールソンだった。
  ショットガンがエイリアンを簡単にミンチにする。慌てて振り向く者、右往左往する者、エイリアンたちは完全に混乱状態だ。
  ターコリエンが意を決して撃つ。
  私もだ。
  私もだー……何だけど……どうして弾丸がこうも面白いぐらいにそれるんだ?
  あ、あれー?
  ボルト101脱走の際には当たったのにな、単発でも。
  ……。
  ……カウンセラーじゃないから分からんけど、これって人を撃ったことに対してのトラウマから来るものか?
  無意識に外しているのか?
  否定は出来んな。
  ついこの間まで住人だった人たちを殺したわけだから。もちろん必要に迫られたっていうのもある。弁解はしない、弁解はしないけど、向こうも殺しに掛かって来てたしなー。
  「保安官、何体潰した?」
  「う、うるさい」
  またこの流れかよ。
  くそーっ!
  状況終了。
  敵は沈黙。
  防弾でもあったようでガラスみたいなものは全くひび割れてすらいない。
  「ポールソン、行きましょう。ターコリエンはそこで待機して、援護して」
  「あいよ」
  「よ、喜んで」
  「私はどうする? コンソール弄るぐらいなら何となく分かるよ? やろうか?」
  「サリー、任せる」
  「はーい」
  そろーりそろーりと中腰で私達は室内に入る。
  ガラス向こうからの反応はまだない。
  銃を向こう側に通じる扉に向けるものの、反応はない。
  逃げたのか?
  増援待ちで待機しているのか?
  それとも……。
  「おいマジかよ、あいつら気付いてすらいないぞ」
  「本当に?」
  「ああ。見てみろよ」
  「ほんとだ」
  そして気付く。
  見るんじゃなかったと。
  処置室にはエイリアンが8体。これは別に圧倒的な数ではない。連中がいる向こう側にはさらに扉、最終的にはどこまで繋がっているのかな。
  問題はベッドの上だ。
  全裸の男性が3人並んで寝転んでいる。
  生きているようには見えない。
  頭の中が空っぽだからだ。
  摘出済みらしい。
  その、脳ミソが。
  エイリアンの医師と思われる連中は今は熱心に内臓を引き摺りだしている。
  何の実験だ?
  分からない。
  もっとも分かりたいとすら思えない。
  人間だって動物に同じことしてるだろと言われればそうだけど、だからと言ってこいつらに対しての怒りを抑えろという道理はない。
  「ミスティ」
  「何?」
  コンソールを弄っているサリーが囁く。
  「あの部屋を氷漬けに出来るよ。冷却システムを作動させれば一網打尽だよ」
  「どうする、保安官?」
  「そこの扉を物を積み上げて通行不能にしてから、中の連中に私たちを気付かせるっていうのはどう? 援軍が大勢群がって来たところでアイスショーの始まりってね」
  「ははは、悪くないぜ」
  「じゃあまだ押さないね」

  「ミアーズ新兵っ! リーム兵長っ! スパロック兵長っ!」

  「うわびっくりしたっ!」
  いつの間にかターコリエンが私のすぐ後ろまで来ていて、そして突然叫んだものだからびっくりした。
  ガラスの向こうを見て唖然としている。
  まさか……。
  「あれがあなたの仲間なの?」
  「サリーっ!」
  「えっ、何?」
  私の問いかけを無視してターコリエンガコンソールのサリーを押しのける。
  「どれを押せばいい?」
  「えっ?」
  「どれを押せばあいつらを地獄に叩き落とせるかって聞いてるんだっ!」
  「そ、それ」
  「これだなっ!」

  ポチ。

  ボタンが押される。
  途端に内部ではシュゥゥゥゥゥゥっと冷気が充満され始める。異変に気付いてエイリアンの1体が扉を開けようとする。こちらの扉だ。
  まずいっ!
  「サリー、ロックしてっ!」
  「うんっ!」
  開けられたらこっちまで彫像にされかねない。
  エイリアンはどんどんと扉を叩く。
  最初の1体に引き摺られたのか他の連中も私達がまだ見ぬ向こう側の扉ではなく、こちら側に群がる。
  そして懸命に扉をガラスを叩き続ける。
  「くたばっちまえクソエイリアンどもっ!」
  だけどそれも長くは続かない。
  次第に動きが遅くなり、そして唐突に動きが止まる。
  全員が彫像となったからだ。
  「サリー、冷気の排出は出来る?」
  「うん」
  「排出後、扉を解放して」
  「分かった」
  サリーが排出作業始める。
  その間に済ませなきゃいけないことがある。
  「ターコリエン」
  「ざまあみろっ!」
  「ターコリエン」
  「何だよっ!」
  「私たちは仲間よ。ああいうものの言い方はやめて」
  「何が分かるっ!」
  「分からない」
  「な、何?」
  「私が分かるのは、場を乱す行動をしたらみんな死ぬってことだけ。運が良いだけだわ、今はね。私たちはチームなんだから、助け合わなきゃ」
  「……」
  「仲間のことは気の毒だと思う」
  「……私の所為だ」
  「えっ?」
  「私が早く決断してたらあいつらは死なずに済んだんだっ!」
  オブラートに包むことは容易いし、気休めも簡単だ。
  でも言うことは言わなきゃ。
  「真っ先にここに来てたら助かったかもしれない。でも私たちにそれが出来た? 武器も集めずに、拠点も作らずに、出来た?」
  「だが頑張れば……」
  「これは結果論よ、だからそう考えれるだけ。私たちに予知能力なんてない。ここでの出来事は想定できなかった」
  「……」
  「自分を責めるのは簡単。そしてそれをするなとは私は言わない。でも、私たちはあなたが必要なのよ。力を貸して」
  「……分かった、オーケー、分かったよ、私は大丈夫だ」
  「ありがとう」
  「残りの部下はここにはいない、助けなきゃだ。力を貸してくれ」
  「ええ」
  「冷気排出、扉も開けたよ」
  「チビスケどもを蹴散らしに行くとしようぜ、なあ?」

  ぷしゅー。

  扉が開く。
  私たちは扉を越えて処置室に入る。
  その瞬間、向こう側の扉も開いた。手にバチバチとした、ソマーが命名したショックバトンを持ったエイリアンが2体入って来る。
  白いコンバットアーマーを着た人間2人を急き立てるように。
  「ダニエルズ軍曹っ! ベケット新兵っ!」
  『ターコリエン分隊長殿っ!』
  こいつは好都合だ。
  今度は助けられるっ!
  素早くターコリエンはアサルトライフルを撃ってエイリアンを射殺する。
  私は口笛を吹いた。
  「やるじゃん」
  「一応、軍隊仕込みだからな。ははは」
  その間にポールソンが扉を踏み込めえその先を警戒する。
  「保安官、敵はいない」
  「分かった」
  「無事でよかった、何かされなかったか?」
  「いえ分隊長殿。少なくともさっきまでアイスキューブにされていたので何とも」
  これで仲間が増えた。
  ターコリエンの部下なら問題ないだろ。
  2人はショックバトンを拾い身構える。ここは敵の戦艦なわけだから敵の増援には事欠かない。少なくとも2人はこの状況を何とか飲み込めているようだ。それは助かる。だけどこのまま
  同行させるというのは問題がある。人柄ではない、戦力的にだ。エイリアンの光線銃は使い方が分からないから使えない。
  試行錯誤している内に使えるだろうけど構造が完全に未知だから信頼性が低い。
  一度退いて実弾の銃を調達しないと。
  だけどこのまま退くのも芸がない。
  「ポールソン、私と来て」
  「ん?」
  「彼らは銃を持ってないから、一度エンジンコアまで後退しようと思うけど、その前に私たちで少し偵察しましょう」
  「それは構わん……」
  「いや私が行こうっ!」
  「ターコリエン」
  「行かせてくれ、頼むっ!」
  「で? どうするんだ、保安官?」
  「分かった、私とターコリエンで進む。一応あなたたちはここで退路を確保して置いて。えっと……名前どっちがどっちか分からないんだけど、兵隊さんたち、どういう順路だった?」
  「一本道だった」
  「ありがとう」
  それなら偵察も撤退も可能だろう。
  私たちを飛び越えてここのメンツ襲撃されて逃げ道を失うことにはなるまい。
  仲間たちと一度ここで別れ、私たちはさらに奥へと進むべく部屋を出て、通路を歩きだした。
  相変わらず敵はいない。
  どんな警備シフトなんだろうな、これ。
  脱走を想定していないにしてもだらけ過ぎだ。
  「ミスティ」
  「何?」
  「さっきはありがとう」
  「仲間でしょ」
  「それでも、ありがとうが言いたいんだよ。ありがとう、本当に」
  「ええ」
  それから少しお互いに黙る。
  どれだけ進んだだろう。
  通路が終わり、そして広い部屋に出た。部屋、という表現では狭いのかもしれない、広大なドーム状の場所だった。思わず私たちはそこで立ち止まり、声が出なくなる。
  たくさんのエイリアンたちが細長い円柱状の代物を壁に押し込んでいく。
  反対に取り出してどこかに運ぶ者たちも。
  エイリアンの数も多いけど、ここの広さもだけど、一番驚きなのはあの円柱状の中にいるのが人間だということだ。
  こいつらどれだけ誘拐したんだ?
  そしてどれだけまだ誘拐するんだ?
  少なくともポールソンがいた時代は500年や600年は昔だ。もしかしたらそれ以上だろう。そしてポールソンがここにいたってことは一度も母星に戻ってないことになる。母星があればだけど。
  人類の歴史にこいつは常に側にいたということだ。
  全面核戦争の時も宇宙から見てた。
  何が目的だ?
  何が……。
  「ターコリエン、充分よ、気付かれる前に退きましょう」
  「これが目的だったんだっ!」
  「声が大きい」
  「そうとも、こいつらこれが目的だったんだっ! こいつらここが一杯になるまでやめないんだ、数百か、いや数千かっ! こいつらは人間を観察し、誘拐し、解剖し、そして知的欲求を満たしていく。
  何でやるかって? 好奇心からさっ! 実に皮肉じゃないか、私たちがやって来たことを、こいつらは私たちにやっているんだっ!」
  「ターコリエンっ!」
  「こいつらにとって我々が動物なのかウイルス扱いなのかは知らんさ、だが教えてやろうじゃないか、ただ狩られるだけじゃないってことをな。私はもう逃げないぞっ!」
 



 


















  その頃。
  エンジンコア。

  テレテレッレー。
  「オメデトウゴザイマス、人類サン。アナタニ死ヲプレゼントっ!」
  「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」